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中国における水環境保全再生のための窒素・リン対策

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中国における水環境保全再生のための窒素・リン対策

福島大学共生システム理工学研究科 稲森悠平

1.中国の水環境と再生技法
中国の水環境は、特に湖沼において昔は山紫水明と言われていた。ところが、ほとんどペンキのような緑色のアオコに覆われて壊滅的状況となっている。この原因は、生活系・産業系に由来する窒素・リンが最大の原因である。このような状況を改善する上では、流入負荷としての効果的な窒素・リン除去が必須となる。この基盤となるのが、バイオエンジニアリングいわゆる生物処理工学としての高度処理浄化槽等、エコエンジニアリングいわゆる生態工学としての水生植物浄化・土壌活用浄化技法である。これらの技法の普及展開は国内外で極めて重要な位置づけにある。

2.中国との環境交流の足跡
日中環境交流および協力が進展しつつあるが、これまでJICA専門家等として、太湖、雲貴高原、紅楓湖、百花湖などの日中技術協力事業を実施してきた。中国で研究活動を通じ太湖の水質改善「863」課題技術委員会委員、中国大理 海水環境研究所名誉所長、上海交通大学環境科学・工程学院顧問教授などの役割を果たしてきている。この間、身にしみて体験した中国の多くの場所での自分の経験から、「一つの湖沼がひどく汚染されたら、元に回復するのに必要な時間は、数十年もかかる。だから、払った対価は、この湖沼から直接得た経済利益の何百倍もかかるのだ」ということである。これにより、中国人の責任感と良識を呼び起こしたといえるが、先人の犯した失敗を、同じように繰り返さないための戒めとして、認識しておく必要があるといえる。

3.バイオエコシステムの中国展開
バイオ・エコエンジニアリングを「霞ヶ浦湖水の環境修復工程」に使用し、良好な効果を得ることができ、「霞ヶ浦湖水環境賞」を授与した。この技術については、改善を絶え間なく行ってきているが、中国では、この技術が「秘密兵器」と呼ばれておりこの科学技術の成果をアジア諸国、特に発展途上国に広め、汚染された水環境修復の強力な道具とすることができると信じている。そうすれば、この科学技術による成果は、更に大きなものになるであろう。これは、科学者として求めている領域の理想であるといえる。この技術は、中国では初めて貴州省の猫跳河の流域で、試された。猫跳河は貴州高原の中部にあり、長江流域の烏江の水系に属し、烏江の一級支川である。この川の川幅が狭いため、大きな猫(貴州で虎の通称)が、石の峡谷を飛ぶという意味から「猫跳河」と呼ばれている。
紅楓湖、百花湖は、猫跳河の流域の発電を目途とした一、二級のダムである。富栄養化により、アオコが発生する危機に陥った。統計によると、“両湖”流域に、60箇所余りの汚染源があり、毎年各種類の廃水の排出総量は2.2億m3である。紅楓湖の湖底に数年で溜まったリンの量は2,000トンほどある。毎年依然として200トンのリンが湖に流れ込んでいる。80%は湖底に滞留し、気候が少し変化す
ると、底泥が舞い上がりやすい。このような現状を踏まえ、貴州省と協力して両湖の富栄養化原因と防止に対して、水質富栄養化に関する改善項目を申請し、日本政府から、無償で1.5億円の研究設備とビーエルテックのN・Pオートアナライザー等の分析機器が供与され富栄養化対策の事業が効果的に実施された。このような、井戸を掘った人のことを忘れてはいないという中国側の基本的思想に基づき、貴州省人民政府から“貴州省国際科学技術協力賞”を贈呈された。引き続き、「秘密兵器」は太湖に導入された。昔の太湖といえ、中国人はすぐ、“太湖美、太湖美、美就美在太湖水”という懐かしい民歌を思い出すといわれている。現在の太湖といったら、皆、“太湖藍藻”の大発生事件を思い出し、悲しい、悔しい気持ちでいっぱいになるということである。太湖流域には38の都市があり、都市化の水準は最高であり、経済文化が最も発達している地区の一つであるが、経済発展と人口の増加により、汚染原因が増え、自然環境に深刻な被害を及ぼしている。この太湖の再生のために、日中双方が協力して、JICAと国家環境保護総局(現在の環境保護部)は“太湖水環境修復モデルプロジェクト”を、中国環境科学研究院、江蘇省環境庁、無錫市など中国関連機構と日本国立環境研究所、国立土木研究所が計画策定をし、実施した。その目的は、分散する汚染問題を解決し、生態回復技術と合わせて、分散型生活排水を浄化槽などの技術を利用して、太湖の生態を改善、回復することと、湖沼改善の国際的に通用する専門的人材を育てることであったが、高度処理浄化槽等の実用化技術を成功させた。また、アオコ発生を抑制する水圏生態系モデルマイクロコズム方式などに成功した。このことが広く伝わることで、日中双方による共同組織の評価により、目標は達成された。

4.中国におけるバイオエコシステムの評価
第七回“江蘇科学論壇(於:南京)”に参加した、アオコ防止と湖の治水に関する基調講演で大きな評価を頂き、また、多くのメディアが報道した。ここでは、これまでの経験と体験を通じて太湖の実情に対応した研究成果の上に、都市生活排水、工業排水等“点の汚染(天源負荷)”と、農林業化学肥料、水産養殖汚染、湖底泥など“面の汚染(面源負荷)”方面から、太湖の富栄養化とアオコの大発生の相関関係、有毒アオコの青酸カリより60倍以上の毒性を持っている危険性防止の施策と治水の重点施策はリンと窒素を除去することであり、科学的に太湖の治水を行うために、中国政府へ八つの具体策を提案した。

①長期的に治水の準備が必要である。②流域単位で総合的な管理と治水を進めること、全面的な治水計画を制定、期間を分け、分割して実施し総合的に治水すること、また、水分条件の改善、生態水調整、生態化システムを構築する。
③科学的に湖を区割りして測定し、環境改善能力と、環境配置容量を調べる。
④生活排水からリンと窒素を除去すること、農業汚染による面の汚染を制御すると同時に、リンを除去するための「合併式浄化槽」等の分散型汚染水処理設備などを普及する。
⑤バイオエコシステムを利用して、内部汚染の削減などに努力する。
⑥回復性のある湖畔を再建する。
⑦国民に広く環境保護教育と環境保護意識の普及を図る。
⑧国際的な協力と研究を強化すると、同時に、
①水の修復技術と管理の専門家の養成、中国の発展のために専門人材が必要、
②政府、業界、学会の交流が必要、
③国際的ネットワークを立ち上げる、および
④財政的な支援が必要であることを特に強調した。この、理論は国の関連部門の責任者・科学者の思想の基盤となりつつある。
5.バイオエコシステム導入による国家表営と展望
中国国慶節の期間に、中国政府から友誼賞が与えられ、中国建国60周年記念パレード参観に招待された。1984年JICAの短期専門家として、中国の長春と内モンゴルで、羊脂を回収する技術指導の仕事に参加し、それ以来、中国を150回以上訪問し、20年間以上、技術指導を行い、バイオエコシステム導入により中国で高い評価をいただいた。この栄誉に対する環境保護部の推薦理由は、中国環境科学研究院の教授を務めると同時に、初めて、浄化槽技術を中国に導入し、関連技術の指導を行い、中国での汚水処理技術の国産化への技術的研究と開発を推進したことであるということである。
最後に、中国の富栄養化対策においては、窒素、りん濃度の挙動を正確に且つ迅速に把握するオートアナライザーは欠かせない存在であり、バイオエコシステムの評価のためにも必須であるといえる。それ故、JIS規格となった自動化技法としての気泡分節型連続流れ法のオートアナライザーが、国内はもとより、中国等発展途上国における大学・研究機関等での飛躍的拡大普及整備が、基本であるといえ、これからの発展をますます期待するところである。

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kimura@bl-tec.co.jp

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